ベンチャーキャピタル・ファンド『電通デジタル・ファンド』の実績や評判は?

ベンチャー企業が創業してプロダクトを開発してから一番困るのが売上を上げることです。

一般的にベンチャー企業の開発する商品はまだ市場が未成熟な商品である事が多いので、そのような製品があるという認知度アップとその中でも自社の製品が優れているというブランディングを同時に行う必要があります。

実は、この2つは難しくて画期的な製品を作り出したけれども、広告に予算が出せなかった、広告が上手くなかったので誰も知らなかったので結局市場が発展する前に会社が倒産したり事業部を閉鎖したりという事例も少なくありません。

今回紹介するのでは電通デジタル・ファンドといい電通グループの会社の一つが運営するファンドです。

電通と言えば日本を代表する広告代理店の1つで、取引先には大手テレビ局だけではなく、日本を代表する企業が名を連ねています。

このような広告業界で大きな力を持つ電通にサポートを受ける事はベンチャー企業にとっても頼もしいといえますが、電通デジタル・ファンドはどのようなベンチャーキャピタル・ファンドなのでしょうか。

 

今回の記事では、この電通デジタル・ファンドに注目し、どのようなベンチャーキャピタル・ファンドなのか、実績や評判などを徹底解説していきます。

 

電通デジタル・ファンドの概要

まずは電通デジタル・ファンドの概要からお伝えします。

電通デジタル・ファンドは「電通イノベーションパートナーズ」という電通グループの会社が作ったファンドの1つです。

ちなみに、「電通イノベーションパートナーズ」は2017年7月1日に「電通デジタル・ホールディングス」と名前を変更したので両者は同一の会社で、元々は電通ドットコムという名前で2010年から電通デジタル・ホールディングスという名前で運営されていました。

株式は電通が100%保有しており電通の完全子会社となっています。

 

なお、「電通デジタル」という会社も電通グループにはありますが、こちらは電通の中でもデジタルマーケティングを担当する会社でファンドとは関係が無い事に注意してください。

 

電通デジタル・ファンドのファンドの内容について

電通イノベーションパートナーズが運用している電通デジタル・ファンドは正式には「電通デジタル投資事業有限責任組合」と言い、2010年に設立された出資金総額100億円のファンドです。

出資金総額100億円は電通と電通デジタル・ホールディングス(現:電通イノベーションパートナーズ)によって出資されているので、実質的に電通の資金でベンチャーキャピタル業務を行っていると言えます。

なお、同じ様に自社グループの資産でファンドを作って管理運営しているパターンとしてはニッセイ・キャピタルなどが挙げられます。

ニッセイ・キャピタルも出資金総額100億円の規模のファンドを運営していますが、ニッセイ・キャピタルは5つのファンドを運営しているので、ベンチャーへの投資資金自体は日本生命の資金を運用しているニッセイ・キャピタルの方が豊富にあると言えます。

 

ただし、ニッセイ・キャピタルはどんなステージのどんな業種のベンチャー企業にも投資を行うスタイルで、集めた保険金の資産運用が目的だと考えられますが、電通デジタル・ファンドの場合はデジタル系の電通の事業と親和性が高そうな事業に対して投資をする傾向があります。

 

ですので、資産運用をしようというよりも、電通とシナジーを生み出しそうなパートナー企業を発掘、育成する目的が強いという風に考えられます。

 

なお、電通には電通デジタル・ファンド以外にもう1つファンドがあります。それは電通ベンチャーズというファンドで正式名称は「電通ベンチャーズ 1号グローバルファンド」といいます。

運用期限については2015年4月に出資金総額100億円で組成されて2025年3月に解散予定です。

こちらの出資者は電通資本の会社だけではなく、プライムパートナーズというベンチャーキャピタルも出資を行い、運営にもプライムパートナーズのスタッフが参加しています。

こちらの方が一般的にイメージされるベンチャーキャピタルの運営に近いと考えられます。両者は同じ電通グループではありますが、別のベンチャーキャピタルである事に注意してください。

 

電通デジタル・ファンドの投資方針について

電通デジタル・ファンドという名前の通り、IT関係の業種に特化したファンドになっていて、設立当初から、

①デジタル・マーケティング・プラットフォームおよびデジタル・メディア

②デジタル・テクノロジー

③ソーシャル・マーケティング

④デジタル・デバイス開発

⑤デジタル技術を活用した新たなビジネスモデル展開

等という5つの重点投資領域を設定している事を公表しています。

 

挙げられている項目からも読み取れますが、デジタル・メディアやソーシャル・マーケティングなど電通の業務とシナジーを獲得できそうな事業領域のベンチャー企業を投資対象としており、電通の未来のパートナー企業を発掘・育成しようという意図が強いと考えられます。

 

よって、投資先を絞っているためか投資実績もそれほど多くありません。

 

主なEXIT実績は?

投資した実績が少ないのでEXITの実績も有名な大手ベンチャーキャピタルと比較すると少なくはありますが、きちんとIPOまで到達している企業も存在します。

例えば、2014年12月にマザーズに上場したクラウドソーシングのマッチングを行っている「クラウドワークス」、2017年に上場した資産管理・家計簿アプリを開発・提供している「マネーフォワード」や、広告技術の開発を行っている「Fringe81」などは電通デジタル・ファンドの投資先です。

ファンドが設立されたのは2010年と誕生してわずかですが、着実にIPO実績を積み重ねています。

 

最近の投資実績は?

電通デジタル・ファンドが投資した企業の中で、IPOしていない有名な企業としては、例えばビットコインの取引所としてCMも放送している「bitFlyer」同じくCMを放送している転職サイトのビズリーチなどがあります。

他にもEXITした会社も含めて40社程度に投資をしています。

 

直近の投資案件としては2016年9月にプログラミング・IT教育を行うライフイズテックという会社に投資を行っています。

2014年は7件、2015年は16件、2016年は4件とコンスタントに投資を行っていましたが、ライフイズテックへの投資以降、ベンチャー投資を行っていないので今後の投資が気になるところです。

投資をしている企業にはシード期のまだ知られていない企業よりも、アーリー後期やミドル以降の比較的ベンチャー企業の中でも有名な企業の名前が並んでいます。

 

ちなみに、ファンド設立後初めて投資した企業はSalesforce や GoogleApps等のクラウドサービスの導入、活用コンサルティングなどを行う会社のウフルという企業です。

 

また、投資だけではなく、電通の事業と特に親和性が高い企業との間に業務提携を結ぶ事もあります。

例えば、2016年の3月には統計的手法を用いたクラウド型のデータ分析ソリューションの企画・開発・提供を行うサイカという会社に対して資本を出資し、「テレビ CM やインターネット広告の出稿量や関連するオンライン情報、およびパソコンやモバイルなどのデバイスを横断するデータを利用し、クロスメディア展開によるプロモーション活動がどのように影響し合い、売り上げやコンバージョンなどにどう影響を与えているかなど統計学的な分析する」ために業務提携を行う事を発表しています。

 

電通デジタル・ファンドから出資を受けるメリットとは

ベンチャーキャピタルとベンチャー企業の関係性は単に投資した側と投資を受けた側というのではなく、二人三脚で事業を大きく育てるための大事なパートナーにもなります。

特にベンチャーキャピタルから出資を受ける事によって、株式の持ち分に応じて経営に影響力を持ちますし、取締役を送り込まれる事もあります。よっては、どのベンチャーキャピタルから投資を受けるのかというのは、投資を受ける金額と同じかそれ以上に大事な事だと言えます。

 

電通デジタル・ファンドから投資を受けるメリットはなんといっても電通の持つ広告に関するノウハウが提供されるという事で、プロモーションに失敗してせっかくの良いサービスが日の目を見ていないベンチャー企業も多い中、これは大きなアドバンテージとなります。

また、電通は日本の多くの大企業とのネットワークを持っているので、そのコネクションを使って大企業との協業を行える可能性があるのも大きなメリットだと考えられます。

このような理由から電通から出資を受ける事によって得られるサポートは非常に魅力的だと言えます。

 

電通デジタル・ファンドから投資を受けるには

まず、前提として近年積極的には投資を行っていないので電通デジタル・ファンドから投資を受けるのは難しいと考えられます。

電通グループのサポートをベンチャー企業として受けたいというのならば、2015年に組成されて、まだ投資資金に余裕があると考えられる電通ベンチャーズを狙った方が考えられます。

 

そして、電通デジタル・ファンドから出資を受けるためには事業領域が重要であると考えられます。

電通の投資先の企業を見ると、基本的にはミドル以降の成長がほぼほぼ約束されている企業への投資が中心で、シード・アーリーの時期に大きなリスクをとって投資を行うという事は少ないと考えられます。

アーリーのタイミングで投資を受けている企業も電通の重点投資領域で電通の事業とシナジーが高そうな企業です。よって商品を開発してある程度ユーザーを増やす事と、電通の事業とシナジーが高そうな領域でサービスを開発するという事が電通デジタル・ファンドから投資を受ける為の条件だと考えられます。

 

連絡自体は電話番号やメールアドレスがコーポレートサイトに掲載されているので可能ですが、他のベンチャーキャピタルと比較して投資を受ける際に必要な提出資料などは細かく説明されていないのでハードルは少し高いと考えられます。

 

最期に

以上のように、電通デジタル・ファンドについて紹介してきましたがあらためて内容を振り返ります。

 

電通デジタル・ファンドは日本の最大手広告代理店の電通が運営しているファンドです。

 

電通は電通デジタル・ファンド以外にも2015年から新たに電通ベンチャーズというファンドを運営しており近年はこちらの投資が活発になっています。

なお、電通グループには電通デジタルという会社がありますが、電通デジタルはデジタルマーケティングを行う会社で、電通デジタル・ファンドは電通イノベーションパートナーズが運営しているので、両者は同じグループ会社以上の関係はありません。

 

電通デジタル・ファンドは出資総額100億円と大きいファンドですがすべて電通グループの企業からの出資となっています。

同じようにグループの資産を運用するファンドを運営しているパターンとして日本生命の資産を運営しているニッセイ・キャピタルなどがありますがこちらは儲かりそうな幅広い業種に投資を行う傾向があります。

しかし電通デジタルはそれと比較すると重点投資領域をデジタル・マーケティング・プラットフォームおよびデジタル・メディア、デジタル・テクノロジー、ソーシャル・マーケティング、デジタル・デバイス開発、デジタル技術を活用した新たなビジネスモデル展開としており、自社とシナジーがありそうな企業に投資を限定する特徴があります。

 

現在までの投資案件は約40件程度で創業して10年未満のファンドではありますが、クラウドワークスやマネーフォワード、fringe81など投資先の中から着実にIPOに到達する企業が誕生しています。

また、IPO前でもビズリーチやbit FlyerなどテレビCMなども放送しているメジャーな企業にも複数投資を行っています。

ただし、2016年9月にライフイズテックに出資をしたあと2017年末まで、他の企業への投資を行っていないので近年は新たな出資を控えていると考えられます。

ちなみに電通には電通ベンチャーズという2015年に設立されたもう1つのファンドがありこちらは2017年現在積極的な投資をおこなっています。

 

電通から投資を受けてサポートを得られると、ベンチャー企業が失敗しがちなプロモーションについて大きなアドバンテージを得る事ができるのでぜひ出資を受けたい1社であると言えます。

ただし、近年は投資をしていませんし、投資をするのは電通の業務と相乗効果が生み出せそうな企業でかつ、比較的大きな企業である事が多いので投資を受けるのは困難だと考えられます。