ベンチャーキャピタル からの起業資金調達、利用した際のメリットやデメリットとは

起業時の資金調達法に「 ベンチャーキャピタル 」を考える方は少なくないのではないでしょうか。万が一、事業に失敗しても返済義務が無いため、銀行からの借入よりベンチャーキャピタルからの出資の方が有利と考えられるのではないかと思います。

現在国内でも2000年前後のIT革命に伴うベンチャーブーム以来のベンチャーブームが発生しています。今回のブームが以前と異なる点は「ベンチャーに対するサポートが昔と比べて豊富」である点です。端的に言えばベンチャーキャピタルから融資を受ける事が今回のベンチャーブームにおいて一般的な事になっていると言えるでしょう。

しかし、ベンチャー界隈の情報に詳しくない企業経営者にとってベンチャー企業とそれをとりまくベンチャーキャピタルが作る企業集団の生態系は、アメリカのシリコンバレーで起きている事で遠く離れた日本においては対岸の火事のように映るのではないでしょうか。

そんなベンチャーキャピタルですか、日本にそのような文化は根付いていないと考えている経営者にとってどのような内容の企業なのか、実際に利用した場合とどのようなメリットとデメリットがあるのかなどは気になるところです。国内に於けるベンチャーキャピタルについて紹介します。

そもそもベンチャーキャピタルとは?

まだ上場していない企業に対して投資と経営コンサルをおこない、その企業を成長させた上で株式上場させ、他のファンドなどに転売を行って利益を得ている企業をベンチャーキャピタルと呼びます。企業への投資業務以外にも、ファンドの運用報酬などを収入源に運営しています。

ベンチャーキャピタルは投資金額の3倍、5倍、10倍といった、リターンを狙ったハイリスクハイリターンを信条として業務する非常にアグレッシブな投資ファンドなので、初めて利用する場合は、そのデメリットについてもよく理解した上で利用の判断を行うべきです。

基本的に普通株式の引き受けが投資方法となりますが、CBや様々な設計の種類株の引き受けも行っています。自己資金を未上場企業に対して投資を行ったり、ファンドを設立し投資家から資金を集め、ベンチャーキャピタルがファンドマネージャーとして未上場企業に投資するといったケースもあります。

未上場企業に対して出資と言う形で資金を投資し、産業育成をする事を役割としています。また、ベンチャーキャピタルは「ハンズオン」と呼ばれる投資スタイルで投資担当者が投資先企業の社外取締役に就任するなど投資した企業の経営に深く関与するケースも見られます。

日本に於けるベンチャーの生態系

シリコンバレーを中心に成功を収めたベンチャー企業やその支援を行ったベンチャーキャピタルの英雄譚が配信されていますが、ベンチャー界隈の特徴として独自の「生態系」を築いている点が挙げられます。ベンチャー企業として成功した企業や経営者は成功すればそれで終わりではなく、成功によって利益の一部を将来性のある企業に投資する事で、次の成長企業を作りだすサイクルがベンチャー業界で完結しているということです。

有望な企業に投資を行うと言っても、有望なベンチャー企業ほど市場の成立が確認できない未開拓領域に挑戦する傾向にあり投資リスクは高くなります。ベンチャー界隈の驚くべき点は、このリスクマネーをベンチャー界隈内で循環させるシステムが構築されている事だと言えるでしょう。

このようにシリコンバレーに根付いたベンチャーの生態系を例に挙げると、異様に捉える方もいるかも知れませんが、この文化は確実に日本に根付き始めています。

2000年前後のベンチャーブーム時代の経営者の著書には資金調達がよく描かれています。当時のベンチャー文化では、成功したベンチャー企業が、有望なベンチャー企業に対して投資を行う文化が存在しなかった事が判り、この点が現在のベンチャーブームと大きく異なると言えるでしょう。

現在、成功を収めた多くのベンチャー企業が後進のベンチャー企業へベンチャーキャピタリスト事業を行っています。インターネット関連のサービスを行い、前回のベンチャーブームの成功企業として挙げられるGMOは、GMOベンチャーパートナーズという企業を運営し、アメーバブログで有名なサイバーエージェントもサイバーエージェント・ベンチャーズという子企業を持っています。

他にも携帯ゲームで有名なGREEやグロービズなどもベンチャーキャピタルを保有しています。このように日本に於いても成功したベンチャー企業が後進のベンチャー企業の育成を行うという文化が根付き始めています。

 

日本でベンチャーキャピタルが増える理由-日本はベンチャーが上場しやすい?

成功したベンチャー企業が後進のベンチャー企業にリスクマネーを投下するのはボランティアとして行われている訳ではありません。後進のベンチャー企業に資金を投下する事でリターンが見込めるからこそ投資が行われます。

ただし、ベンチャーキャピタルは株式獲得に対し少額の配当金を目的とした投資を行う訳ではありません。仮に配当金目的で投資を行うのであれば、既存の上場企業の中で配当が高い株式を購入すれば、より低リスクで高利回りの運用が行える可能性が高いからです。

ベンチャーキャピタルの目的は「株式の売却による利益獲得」です。一般的にイメージされるのは投資先企業が株式公開を行い、上場した株式を売却する事で利益を得る手法ですが、他にもファンドの解散期限が近づいていたり、成果がでないため投資先の事業を欲しがっている企業に株式を売却する場合もあります。

ただし、特に上場が比較的容易な日本でベンチャーキャピタルが狙う本筋は前者の株式上場による利益獲得です。東証一部にいきなり上場する事は困難ですが、ジャスダックやマザーズなどの新興企業向けの株式市場への上場ならば上場要件は厳格ではなく、売上数十億円程度から赤字決算であっても上場可能となります。

株式公開と言えば数十億から何百億円の時価総額を持つ企業の誕生をイメージしますが、このような理由から近年では時価総額数億円から数十億円前半の小型の株式上場が増加しています。

しかし、例えばメルカリのように時価総額が1000億円超と言われながら、あえて株式公開を行わずベンチャーキャピタルからの資金調達で企業価値を向上させる企業も存在します。これらの企業はベンチャー企業の中でも非常に希少性が高い事から「ユニコーン企業」と呼ばれます。

国内でベンチャーキャピタルとベンチャー企業が増加する背景には、日本の上場しやすい制度が大きく影響していると考えられます。

 

ベンチャーキャピタルの歴史と日本の発展

国内にベンチャーキャピタルが生まれたのは、中小企業投資育成企業法が制定された1963年の事です。これを基に日本では東京中小企業投資育成、大阪中小企業投資育成、名古屋中小企業投資育成の3社が設立されました。これが日本のベンチャーキャピタルの草分け的な存在となります。

このベンチャーキャピタルは名前からも判る通り公的要素が強い企業で、日本初の民間ベンチャーキャピタルは京都エンタープライズデベロップメントという企業になります。

しかし、この企業は現在存在しておらず、確認できる最古のベンチャーキャピタルは日本で4番目に設立された野村証券のグループ企業であるジャフコです。日本合同ファイナンスの名称で1987年に上場し、現在は野村グループで運営されています。ジャフコは国内における最大手のベンチャーキャピタルでもあります。

現在までに国内では大きく分けて4度のベンチャーブームが発生しました。

 

第一次ベンチャーブーム

第一次ベンチャーブームは1970年代前半のベンチャーキャピタルが誕生したことによるブームです。しかし当時は東証しか上場先が存在せず、上場基準も厳しかったため、成功するベンチャー企業もベンチャーキャピタルも稀でした。また法制度も整っておらず、現在のように投資事業組合を組成して投資を行うスタイルが始まったのは1980年代に入ってからです。

 

第二次ベンチャーブーム

このような悪戦苦闘する1970年代を経て、1982年に今の投資ファンドの原型となる投資事業組合が初めて創設され第二次ベンチャーブームが発生します。投資事業組合は民法における任意団体にすぎない課税団体でしたが、いくつかの条件を満たした上で非課税団体、非課税組合として取り扱われるようになりました。

投資事業組合という組織が制度化される事により、ベンチャーキャピタルはより設立・運営が容易になり、1983年から1986年の3年間に約60社のベンチャーキャピタルが設立されたと言われています。

 

第三次ベンチャーブーム

1990年前後にバブルが崩壊し、日本経済期が停滞期に入った事で国内のベンチャーキャピタル投資もいったん下火になります。しかしIT革命が転機となり、業務用として一部の専門家の間でしか使わなかったコンピューターが一般的に使用され始め、コンピューターに関する様々なサービスを提供する企業が1990年代に立ち上がりました。

例えばライブドアや楽天、サイバーエージェントなどインターネット関連の巨大企業が短期間の間に成長し、株式投資ブームが巻き起こりました。

 

第四次ベンチャーブーム

ITバブルが崩壊したと言われる2001~2002年にベンチャーブームは再び下火となりますが、2010年を経過すると現在の第四次ベンチャーブームが始まります。

現在のベンチャーブームの特徴はシリコンバレーの成功企業や文化を模倣する形で様々なノウハウが日本に輸入され、第三次ベンチャーブームを勝ち残った企業がベンチャーキャピタル側になったことです。国内でベンチャー企業への投資環境が整ってきた事によって第4次ベンチャーブームが始まりました。

第3次ブームまでは5~6年程度の短いスパンでのブームでしたが、第4次ブームは現在も続いており、ベンチャー企業への投資は年々増加していると言われています。

ベンチャー投資という投資ジャンルが徐々に確立してきているため、現在の第4次ベンチャーブームは一時的ブームで終わるのではなく、このまま日本にベンチャーキャピタルという文化が根付く事も考えられます。

 

国内のベンチャーキャピタルの種類

日本にベンチャーキャピタルによる投資の文化が根付きつつありますが、国内のベンチャーキャピタルは次に挙げる4つに分類できます。

 

  • 古くから存在している政府系のベンチャーキャピタル
  • 銀行・保険・証券などの金融機関が保有するベンチャーキャピタル
  • 大学が研究開発した技術を民間に転用するためのベンチャー企業に投資する大学系のベンチャーキャピタル
  • 民間企業が運営する独立系のベンチャーキャピタル

 

前記2種類のベンチャーキャピタルは以前から存在しますが、注目するべきは後記2種類のベンチャーキャピタルです。

現代は大学が新しい産業の担い手として積極的に研究技術の特許を取得、民間に還元しようとしています。またシリコンバレーのようにベンチャー企業が独立系ベンチャーキャピタルとして未来の有望ベンチャーを支える生態系が日本においても確立しつつあり、これら2種類のベンチャーキャピタルの動向には注目するべきでしょう。

ベンチャーキャピタルからの起業資金調達方法とは?

ベンチャーキャピタルには、起業直後の企業への出資に特化したものやある程度成長した企業に対し億単位での出資を中心に行うものなど、そのスタンスは様々です。

既に紹介した通り出資を行う目的は、出資先を売却する際の売却益と出資先が株式上場した時に発生する売却益です。つまり、安く買った企業を高く売却することで利益を稼ぎ出しています。

どの企業に投資を行うかの判断は、利益率を軸に考慮し「選定企業が現在どの位の価値を有し、投資を行った際にどの様な将来性があるのか」を見ながら検討を進めます。

そのため提出する事業計画書には、自社の将来性のアピールやビジネスモデルなどについての理解を得られるよう、詳細な記入を心がけるべきでしょう。

ベンチャーキャピタルに事業資金を出資して欲しい場合は、直接問い合わせをしてみると良いでしょう。また、知り合いにベンチャーキャピタルを利用している人がいないか当たってみるのも方法の1つといえます。

ベンチャーキャピタルでは、創業まもない企業を対象にした「スピーチコンテスト」と呼ばれるプレゼンテーション大会を開催しています。

大会に参加することで、著名な経営者や投資家を前に自社のアピールを行う事が可能です。プレゼンテーションが成功すれば、出席者の目に留まり出資へ繋がるケースもあるようです。

チャンスを最大限に活かすためには「与えられた時間で自分たちの思いをいかに伝えられるか」がカギとなります。大会への参加申し込み自体は比較的ハードルが低いので、気になる方はインターネットで探してみると良いでしょう。

他にもネットで検索をおこなえば、多くのイベントや交流会が催される情報を得ることができます。イベントの中にはスタートアップ企業を対象にしたものもあるので、参加しやすくなっています。

イベントに顔を出す事で、新たなネットワークが構築でき情報交換や新たなステップへ繋がるケースもあります。

掴んだ情報や人脈からどんなチャンスがあるのかをリサーチし、利用できる一歩を踏み出しましょう。

ベンチャーキャピタルのメリット

最大のメリットは、出資が受けられると起業後の資金調達が確保されて安心感がある事が挙げられます。

ベンチャーキャピタルは、将来を有望視した企業にしか出資を行いませんから、自社の将来性を高く評価されたというお墨付きを受けた証拠ともなります。

ベンチャーキャピタルで出資が受けられると、金融機関からの融資も受けやすくなります。株式上場を目指す場合、上場後の資金調達も行いやすくなる点もメリットと言えるでしょう。

そして、経営サポートが受けられる点も大きなメリットです。ベンチャーキャピタルから役員が派遣されるなど、直接経営についてアドバイスを受けられます。

経営経験が少ない方でも、専門的な知識を身に着ける事ができ有利な経営が行えます。豊富な知識とノウハウを吸収し、事業経営者として成長できるチャンスとも言えます。

またベンチャーキャピタルから他の出資先のベンチャー企業の紹介を受ける事も珍しくありません。見知らぬ企業でもベンチャーキャピタルの紹介を受け、業務提携や新たな分野への参入・新規顧客獲得など横の繋がりを利用して企業経営を有利に進められます。

ベンチャーキャピタル側も、投資先企業を連携させることで両社が発展をすれば資金回収見込めるため積極的に業務提携を進めてくれます。このようにベンチャーキャピタルを利用すると個人だけでは叶わなかった道が開け、有利な経営ができる点はメリットと言えるでしょう。

ベンチャーキャピタルのデメリット

投資先が経営不振に陥ると、将来性がないと捉えられ資金回収に乗り出してきます。このことで手元資金が枯渇し、経営が続けられなくなるケースもあります。

また、ベンチャーキャピタルに逆らえなくなるというデメリットもあります。ベンチャーキャピタルから経営についてもアドバイスや要望が出されますが、自分のイメージと乖離していてもスポンサーには逆らえなくなり全く違った方向へ経営を進めていかなければならないことがありえるのはデメリットだと言えるでしょう。

ベンチャーキャピタルを利用する前に

このようにベンチャーキャピタルはメリットも多くありますが、失敗すると大変なことになります。

ベンチャーキャピタルは、調達に無理がある大型資金が必要な時や資金面と経験豊富なアドバイスが欲しい時に利用する手段だと言えます。数多くある資金調達手段の中でも、特殊なケースで非常にイレギュラーな手段だと言えます。

市場が大きく成長したり、競争が激しくスピードを持って押さえないと競合戦争に負けるような時に利用したいシステムです。

何となくベンチャーキャピタルから借りてみよう、などの軽い考えで利用するべきではなく、長い目で見た確固たる事業計画を持って利用するべきだと言えます。

ベンチャーキャピタル からの資金調達まとめ

起業間もない企業にとってベンチャーキャピタルはとても心強い存在で、利用メリットも数多くありますが、失敗してしまうと大きな痛手を負うことにもなるので、安易に利用を決めないことが大切です。

実際にベンチャーキャピタルを利用したことのある方や、業務に携わっていた方からの意見を参考に検討をおこなうと良いでしょう。