銀行融資とは全然違う!ベンチャーキャピタルから出資を募るテクニックについて

 

ベンチャーキャピタルから出資を受けるという事にどの様な印象をお持ちでしょうか。何か若いIT系の経営者たちの間で流行っている資金調達手法でシニア経営者にとっては縁の無い話だと思われるかもしれません。

しかし、ライフネット生命は創立当初からベンチャーキャピタルから資金調達をおこなっていましたし、創業者の出口氏が会社を創立したのは60歳を過ぎてからの事でした。社長が40代、50代でベンチャーキャピタルから投資を受けるというのは珍しい話ではありません。

また、現在はベンチャーバブルと言われていて、ベンチャー向けのファンドを様々な会社が作っています。この様な昨今の状況を鑑みると、ベンチャーキャピタルからの出資を募るという選択肢も資金調達の一つの方法として検討に値します。

本稿ではベンチャーキャピタルからの出資を募る際に、必ず押さえておくべきオーソドックスなテクニックについて解説していきます。

【 1 】ベンチャーキャピタルは何を考えているのか?

ベンチャーキャピタルから出資を募る前に大切なことは、ベンチャーキャピタルが何を考えているかという事です。

ベンチャーキャピタルはハイリスクハイリターンの投資を行う投資会社です。有望な未上場企業に資金を投資し、会社の株式を獲得する事によって企業を成長させ、投資した企業の株式の公開や転売などによって、投資した額の何倍もの利益を得ようというのがベンチャーキャピタルの考え方です。

この様な投資の方法から、ベンチャーキャピタルは出資した会社が失敗して損失が出ることも織り込んだ上で、投資をおこなった会社の何社かを成功させて、利益を出そうと考えています。

つまり、数%の利子で確実に返済してくれそうな企業だけに堅実に融資をする銀行交渉とは投資のスタンスが違うので、銀行に通じるテクニックがベンチャーキャピタルに必ずしも通用するというわけではないのです。

また、ベンチャーキャピタルはベンチャー企業を「シード」「アーリー」「ミドル」「レイター」という4つの段階に分類していています。各ベンチャーキャピタルによって得意な段階が違うので「レイター」が得意なベンチャーキャピタルは「シード」期のベンチャー企業に投資することはありません。

本稿ではベンチャーキャピタルから出資を募る方法について、どの段階でも通用する総則と各段階特有のテクニックの部分に分けて説明します。

【 2 】ベンチャーキャピタルとの交渉テクニック:総論

まずはベンチャーキャピタルとの交渉テクニックの総論部分について説明します。

(1)資本構成に注意して資金調達をする

 まず、注意するべき点は銀行の融資と違って、ベンチャーキャピタルの出資は資本部分に注入されるという事です。つまり、出資の見返りとして、相手に相応の株式を渡さなければなりません。この時に弱気に交渉して、例えば株の34%以上をベンチャーキャピタルに渡してしまうと、重要事項の特別決議について1社で拒否できるようになるので、後々会社統治が難しくなります。

また、ベンチャーキャピタルからの資金調達で会社を大きくしていく場合には「シード」「アーリー」「ミドル」「レイター」と段階が進んでいくのに合わせて、株式を切り売りして資金調達おこなうので、初期段階でベンチャーキャピタルに株式を渡せば渡すほど、上場した際の経営者側のメリットが減りますし、途中で役員を解任されたり、会社を不本意に営業譲渡される可能性があります。

この様なことを踏まえた上で、株式の割合に注意払いながらベンチャーキャピタルからは資金を募る必要があります。

(2)銀行と同じように交渉してはいけない

この様にベンチャーキャピタルの出資には、株式の放出が伴うので、出資をおこなって欲しいことを見抜かれてしまうと足元を見られて、株式を安く譲ることにつながったり、後々の資本政策で問題が発生することになるかもしれません。

この様な性質から銀行の交渉と大きく違うのが、具体的な資金の使い道を詳細には説明しないということです。銀行からの融資を募るのであれば、何にこの位の設備投資をおこなって、この様な返済計画に基づいて返済をおこなっていくので安心して貸し付けて大丈夫です。という風に交渉しますが、ベンチャーキャピタルにこの交渉方法をすれば、会社が必要としている金額が分かってしまうので逆に不利になってしまいます。

(3)企業や市場の有望性について重点的に説明する

具体的な金額と使い道をこちらから提示して交渉をおこなわないのであれば、ベンチャーキャピタルはどうやって出資額を決めるているのでしょうか。ベンチャーキャピタルは投資する会社を「デューデリジェンス」という調査を行った上で投資金額を決定します。

「デューデリジェンス」とは、企業の価値を算定する為の調査です。デューデリジェンスの方法には様々方法がありますが、ベンチャー投資でよく使われる手法が「DCF法」です。

「DCF法」は、企業が順調に成長した場合に得られるであろうキャッシュフローを算出し、それを元に現在の割引価値を計算した値に応じて投資額と出資割合を決定する方法です。

この様な評価手法を用いて企業の評価を行うので、重点的に説明すべきなのは調達したお金の使い道ではなく、市場や事業の明るさと将来の成長イメージなのです。

(4)ベンチャーキャピタルには期限がある事に注意

また、銀行はその気になれば20年でも30年でも付き合ってくれますが、ベンチャーキャピタルとの付き合いには期限があります。ベンチャーキャピタルはファンドをつくってファンドに出資者を募り、そこで集めたお金をベンチャー企業への出資金とします。

このファンドは、あらかじめ運用期限が決められているので、ファンドの期限前にベンチャーキャピタルが利益確定を行おうとします。つまり、ファンドの期限が近づいてくるとベンチャーキャピタルは、投資した株式を第三者に転売したり、買取を求めるということが起こり得るのです。

ベンチャーキャピタルから融資を受ける場合には、仮に融資を受ける場合どのファンドから融資を受けて、そのファンドの期限はいつまでなのか、ファンドの期限が来た場合には株式をどの様に扱うのかを忘れずに確認しておきましょう。

以上の様に、ベンチャーキャピタルに出資を募る際のテクニックについて、総則的に説明させていただきました。次章では各成長段階における各論について説明します。

【 3 】ベンチャーキャピタルとの交渉テクニック:各論

(1)アーリー期のテクニック:市場の大きさ

アーリー期とは「創業2年から3年程度」で、まだ製品が完成していない企業のことを指します。

いくらベンチャーキャピタルがハイリスクハイリターンの投資を行うといっても、アーリー期の企業にも積極的に投資を行うという訳ではありません。ここでベンチャーキャピタルが真っ先に考えるポイントは、投資をおこなった場合「どの位会社が大きくなりそうか」ということです。

つまり、会社の持っているアイデアの良さではなく「どの位の市場規模のマーケットを狙いにいけるか?」というのが関心の中心になります。そういった意味で、会社が投資額に対して大化けしそうだという期待を市場性や先進性をベースに語るのがアーリー期でのプレゼンのポイントになります。

(2)ミドル期のテクニック:ユーザは多さ、熱心さ

ミドル期は製品があって、少人数でもユーザーが存在している状態のことを指します。

この時点でベンチャーキャピタルは黒字である事を求めません。この際にベンチャーキャピタルが気にするポイントは「どの位の熱心なユーザーを集められそうな事業か?」ということになります。

つまり「何百万円の黒字が出ています」というよりも「無料でサービスを行っていますが何百万人のユーザーを抱えています」という方が、ベンチャーキャピタルには有望な投資先としてうつります。

このタイミングでの出資を募るテクニックとしては「ユーザーの多さ」もしくは「ユーザーの熱心さ」を中心にプレゼンをおこなう方が良いでしょう。

(3)レイター期のテクニック:Exitの方法

レイター期は収益化の方法が見えてきた状態のことを指します。ここで具体的に収益化できる確実なプランがありそうなのかが注目されます。このレベルになると具体的なユーザーの伸び方や、収益化がどの位できているか、どの位まで成長ができそうかということを総合的に見られます。

黒字化しようと思えばできるけれども、開発やマーケティングなどにお金をかけて積極的にユーザー数を増やそうとするのがレイター期の企業となります。この状態になるとマザーズなどへの上場も狙えるようになります。

この時期になると会社に関わるベンチャーキャピタルも様々になるので「もう上場させてしまいたい」「もう少し非上場のまま会社を大きくしてから」「どこかの大手企業に会社を販売したい」などベンチャーキャピタルから見た収益化(Exit)について色々な思惑が出てくるようになります。

この頃には発行した株も分散していることが考えられるので、創業者として不本意なExitにならないように投資家との意思のすり合わせを十分に行う必要があります。

■まとめ

ここまでベンチャーキャピタルから出資を募る際のテクニックについて解説してきましたが、ベンチャーキャピタルからの出資にはリスクが伴います。それは成長の起爆剤である反面に危険が伴うということです。

先ほど述べた通り、各ファンドには期限が設けられているため、ベンチャーキャピタルは短期的な収益性を追求します。創業者が長くじっくり会社を育てて行きたい場合において、ベンチャーキャピタルと足並みが揃わないということが往々にしてありえます。以上の点について把握された上でベンチャーキャピタルから出資を募ることを検討してみてください。