資金調達のハードルが引き下げられる?中小企業を支援する「中小企業融資制度」とは?
大規模企業は国際的な展開を行い日本経済を牽引しているかのようなイメージを持ちがちですが、中小企業庁の公式サイト内では国内の大規模企業が1.1万社であるのに対し中規模企業社数は55.7万社、小規模企業325.2万社にものぼることが確認できます。
国内企業の99.7%が中小企業であり大企業の従業員数が143.3万人に対し中小企業の従業員数は336.1万人と国内における就労者数の約70%が中小企業に勤務しています。
国内経済を支えているのは実は大規模企業ではなく中小企業であると考えられますが、大規模企業と比べると企業体力が脆弱だと言える中小企業の経営者は本業以外にも資金繰りに奔走することを余儀なくされているのが現状だと言えるでしょう。
日本経済の根幹を支え続ける中小企業数は現在小規模企業を中心に下落傾向にあり中小企業庁は「中小企業融資制度」を強化することで資金調達に苦しむ中小企業支援を行っています。
中小企業の資金調達を支える中小企業融資制度を紐解きながら紹介します。
目次
中小企業庁が推進する中小企業融資制度とは?
ファクタリングやクラウドファンディングなど資金調達方法は多様化していると言えますが、最も一般的な資金調達方法として挙げられるのは従来から存在する銀行融資による資金調達だと言えるでしょう。
銀行融資の物的担保に依存する融資体系に大きな変化がみられることなく中小企業の金融経済環境は依然厳しい環境であると言わざるを得ません。
中小企業の切実な資金調達ニーズに応えるため、2007年の中小企業信用保険法改正により流動資産担保融資保証制度などが運用されていますが、担保となる流動資産を持たない中小企業が活用できないのも事実です。
中小企業庁では次に挙げる7つの融資制度の運用を行い中小企業の資金調達を支援しています。
- 売掛金担保融資保証制度
- 信用保証制度
- セーフティネット保証制度
- セーフティネット貸付制度(緊急経営安定対応貸付)
- 新規開業支援資金等における保証人徴求特例
- 成長新事業育成特別融資制度
- 社債(私募債)に対する債務保証
自治体と信用保証協会、日本政策金融公庫で運営される中小企業融資制度
中小企業融資制度は中小企業庁主導で運用されていますが、実際の運営は各自治体と信用保証協会、日本政策金融公庫が行っています。
自治体の取扱う中小企業融資制度は各自治体によって異なりますが、東京都の場合は中小機構(独立行政法人中小企業基盤整備機構)や日本政策金融公庫との連携で次に挙げる中小企業融資制度が運営されています。
- 東京都中小企業制度融資
- 東京都動産、債権担保融資(ABL)制度
- 東京都新保証付融資制度
- 女性、若者、シニア創業サポート事業
- 経営承継円滑化法による金融支援
- 金融機関と連携した事業承継支援
- 中小企業高度化資金貸付
中小企業融資制度利用の窓口は市区町村・銀行などの金融機関・商工会や商工会議所
中小企業融資制度は中小企業庁主導で運用され自治体・信用保証協会・日本政策金融公庫が運営していますが、自治体自体は直接融資を行うよりも登録する銀行や信用金庫などの金融機関をあっせんし運営していると言えます。
中小企業融資制度を実際に運営しているのは信用保証協会・日本政策金融公庫・自治体に登録した金融期間と言うことになります。
しかし信用保証協会は金融機関からの借入に対する返済保証を行い、自治体や商工会・商工会議所は窓口業務を行うだけで、事実上融資を行っているのは民間金融機関である銀行・信用金庫と公的金融機関である日本政策金融公庫ということになります。
自治体からのあっせんを受けた融資は信用保証協会の保証を受ける制度融資として審査のハードルが下がるものの、全ての案件に対して融資が行われるものではなく最終的に金融機関の審査を通過する必要があります。
自治体のあっせん制度利用の際にはあっせん制度が確実な融資を担保するものではないことを理解しておく必要があります。
中小企業融資制度の中で最も効果的な資金調達先は日本政策金融公庫?
自治体や信用保証協会は融資のあっせんや返済の保証をおこなうため中小企業融資制度は事実上を民間銀行や信用金庫、日本政策金融公庫が運営する制度だと考えても良いでしょう。
日本政策金融公庫は政府が株主となる公的金融機関ですが、一般的な金融機関のように口座開設が行えません。
日本政策金融公庫から融資を受ける場合は着金先や返済口座に民間金融機関の口座を指定する必要があります。
この際ネット銀行を指定することができませんので、通帳が発行される一般的な銀行や信用金庫の口座を指定する必要があります。
日本政策金融公庫からの融資を利用する際の必要書類
日本政策金融公庫からの中小企業への融資は公的融資とも言えるものであることから、申請すれば誰でも受けられるというものではなく厳正な審査が行われます。
法人や個人事業主、創業資金の融資など希望する融資で必要書類は異なりますが、全ての融資に必要となる借入申込書の他に法人の場合は次に挙げる書類提出が求められます。
必要書類 | 創業直後 | 業歴1年以上 |
借入申込書 | ○ | ○ |
通帳写し | ○ | ○ |
創業計画書 | ○ | |
企業概要書 | ○ | |
借入金がある場合支払明細書 | ○ | ○ |
自宅や事業所の不動産賃貸契約書 | ○ | ○ |
本人確認書類(運転免許証やパスポート等) | ○ | ○ |
見積書や工事請負契約書(設備資金の場合) | ○ | ○ |
営業許可書・資格や免許の証明書 | ○ | ○ |
関連企業の確定申告書及び決算書(複数法人経営の場合) | ○ | ○ |
印鑑証明書 | ○ | ○ |
代表者宅の光熱費等の支払い状況を確認できる書類 | ○ | ○ |
履歴全部証明書(登記簿謄本) | ○ | ○ |
請求書や通帳などの売上根拠資料 | ○ | |
直近2年分の決算書 | ○ | |
法人税・事業税・消費税納付書 | ○ | |
直近の賃借対照表・損益計算書 | ○ |
個人の場合の必要書類は以下のとおりです。
必要書類 | 創業直後 | 業歴1年以上 |
借入申込書 | ○ | ○ |
通帳写し | ○ | ○ |
創業計画書 | ○ | |
企業概要書 | ○ | |
借入金がある場合支払明細書 | ○ | ○ |
自宅や事業所の不動産賃貸契約書 | ○ | ○ |
本人確認書類(運転免許証やパスポート等) | ○ | ○ |
見積書や工事請負契約書(設備資金の場合) | ○ | ○ |
営業許可書・資格や免許の証明書 | ○ | ○ |
関連企業の確定申告書及び決算書(複数法人経営の場合) | ○ | ○ |
印鑑証明書 | ○ | ○ |
代表者宅の光熱費等の支払い状況を確認できる書類 | ○ | |
源泉徴収票又は直近2年分の確定申告書 | ○ | ○ |
請求書や通帳などの売上根拠資料 | ○ | |
所得税・住民税・消費税納付書(領収書) | ○ | |
直近の賃借対照表・損益計算書 | ○ |
日本政策金融公庫での創業資金調達は自己資本が求められる
中小企業融資制度を利用すれば、法人の場合は原則無担保・代表者の連帯保証、個人の場合は原則無担保・無保証人で低金利の融資を受けられるため創業融資に活用できれば日本政策金融公庫の融資は非常に有利です。
しかし創業資金の融資に対しては自己資金の提示が求められ、自己資金の10倍を融資限度額と定めているため自己資金なしで融資のみを利用した企業には不向きであるとも言えるでしょう。
仮に借入や贈与などで自己資金額を増額した場合でも、日本政策金融公庫の融資審査では自己資金として認められないため予め計画的に自己資金を貯めておく必要があります。
自己資金が不足した状態では希望額の創業融資を受けられないばかりか審査落ちの理由にもなりかねないため自己資金は計画的に貯めておく必要があります。
ただし、事前に事業に用いる設備や備品を購入した結果創業資金が不足した場合は、購入費用を「みなし自己資金」として計上することができるため創業準備中に資金不足に陥った場合でもみなし自己資金を活用することで効果的に創業融資を受けられるケースがあります。
みなし自己資金に計上する仕入れは事業に対する姿勢や事業計画に対して「計画的に実行している」とみなされ融資審査にプラスに働く傾向があると言えます。
最後に
中小企業融資制度は中小企業や個人事業主にとって資金調達の可能性を大きく広げる制度だと言えるでしょう。
しかし公的機関である信用保証協会や公的融資である日本政策金融公庫の利用には、しっかりとした準備を行う必要があり書類不備は審査落ちの原因に繋がります。
低金利の好条件で融資を受けられる中小企業融資制度ですから、必要書類の対策などは万全な状態で臨むべきだと言えるでしょう。