売掛金に時効があるの?放置状態の売掛金は回収権利が消滅!その回避策とは

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売掛金に時効があるのはご存知でしょうか。

本来商品やサービスの提供と共に料金の回収権利が発生するものですが、日本の商習慣では一般的に「ツケ」や「掛け売り」と呼ばれる支払い方法が取られているケースが非常に多く存在します。

経理処理を行う際に売掛金の勘定科目に計上する案件がそれにあたります。 1ヶ月の間に何度も取引が発生する取引先で有れば、1つの取引ごとに請求を行うよりも毎月の締め日に1ヶ月分をまとめて請求した方が、双方の経理処理が簡単で効率的な側面もあります。

しかし、そのような効率化とは別に取引先との関係を保つために回収が先延ばしになっている売掛金も存在するケースが多々あります。 もし未回収の状態の売掛金があるのであれば、早期の回収を検討することをおすすめします。

民法では売掛金の有効期間に対して「返済義務に対する時効」が定められていますので注意が必要です。

せっかく商品を販売したのに、その売り上げが手に入らないとなると経営に大きな打撃になりますので、売掛金の時効についてしっかり知識をつけて対応しましょう。  

【売掛金とは「お金を貸していること」と同意語?】

売掛金として会計処理される案件は、既に商品や製品の納入やサービスの提供が完了しているにも関わらず、対価としての代金が未納の状態であるとことを意味します。

一般的にお金を貸すという行為に対して「返済方法や期限、返済不能となった場合の対処方法などを記入した借用書を交わし現金で融資を行う」というイメージを持つ方が少なくないようですが、未回収の売掛金は融資に対する返済が滞っている状態だと言えます。

未回収の売掛金は事業運営の大きな足枷になる可能性が!

売り上げに対して売掛金が多い状態だと「帳簿上は利益が出ているのにも関わらず手元に現金がない」という状況に陥ってしまいます。

しかし法人税や所得税は経理上の数字を確認して課税されますので、例え未回収の売掛金であっても売り上げとして捉えられ、課税対象として処理されてしまいます。

納税は現金で求められますから売り上げの中の売掛金が未回収で手元に現金がないという理由で納税を滞納した場合、問答無用で追徴課税されたものが請求されます。

未回収の売掛金は債権者にとって大きなデメリットを生みかねない!

事業を運営していく上で、銀行に代表される金融機関からの融資を受けるシチュエーションは決して珍しいものではありません。

金融機関に融資を依頼すると融資に対する与信調査が行われます。 与信調査には決算報告書の提出が求められ、事業の運営状況が厳しく審査されます。仮に売り上げに対して売掛金が多いケースでも、売掛金の回収が問題なく行われている状態であれば売掛金は資産と捉えられ審査に悪影響を及ぼすことはありません。

一方、未回収の売掛金が多い場合は「回収状態が良好ではない要注意案件」として判断されてしまう傾向があり審査のハードルが高くなるケースが少なくないと言えます。

民法が適用される売掛金には時効制度が存在する!

取引先の事情を酌んだ結果として売掛金の回収が遅れてしまうケースは少なくないでしょう。

一般的な債権の時効は10年と民法で定められていますが、売掛金は商法が適用される商事債権と民法が適用される民事債権に分類されます。また民法が適用される民事債権であっても「職業別の短期消滅時効を定めた規定に該当するもの」は一般的な債権の時効よりも短い期間で時効、つまり債務者の支払い義務が消滅してしまいます。

時効成立までの期間は次の通りです。

●1年で時効となる民事債権(民法174条)

・タクシーやトラックなどで発生する旅客運賃や運送料金

・ホテルや旅館などの宿泊施設で発生する宿泊料金

・レストランやバーなどの飲食店で発生する飲食料金やサービス料金

・娯楽施設への入場料金や施設利用料金

●2年で時効となる民事債権(民法172及び173条)

・弁護士事務所や弁護士に対する相談料や裁判手続きに関わる報酬

・公証人役場を利用した際に発生する公証人に対する報酬

・生産や卸売、小売などの業種で発生する料金

・注文制作など請負業や理髪業、クリーニング業で発生する料金

・教育サービスや衣食住に関わるサービスで発生する料金

●3年で時効となる民事債権(民法170条)

・医療サービスの利用で発生する料金

・設計施工に関わる料金や自動車修理などを含める管理業務の利用で発生する料金

●5年で時効となる商事債権(商法522条)

・上記の1~3年で時効となる民事債権に該当しない商事債権

上記の民法170・172・173・174条と商法522条は2014年5月に成立した民法改正によって2020年4月で削除されます。

改正民法では債権が発生から10年間の期間中で、債権者が権利行使を行えることを知った期日から5年間に統一されます。

しかし改正民法が施行される2020年4月までは、従来通り現行法が適用されます。

【売掛金の時効適用を回避する手段とは?】

民法上で定められた時効が成立してしまうと、債権者は法的な後ろ盾を失うと共に債務者は借金に対する返済義務から解放されることになります。

未回収の売掛金がある場合でも、債務者である取引先は借金である買掛金に対する支払い義務が消滅しますので、債権者は未回収のまま売掛金を放棄するしかありません。

売掛金が時効となるカウントダウンはいつから始まるのか?

一般的に各事業所では売り上げの締め日が設定されています。締め日と共に売掛金は請求書の形で取引先に請求され、取引条件で定められた期日や条件で売掛金は清算されます。

売掛金が時効となるまでのカウントダウンは、取引条件で定められた支払い期限を超過した時から始まります。

末締め請求で翌々月15日払いの契約である場合、例えば8月末締めのケースでは、8月31日に請求書が発行され10月15日に支払いが行われます。

カレンダーの関係もありますが10月16日の時点で請求額が支払われない場合、時効へのカウントダウンは10月16日から起算されます。

売掛金の時効成立に必要となる条件とは?

商事債権の時効は民法が定めるところではあるものの、時効を成立させるためには債務者が該当する商事債権が時効を迎えていることを主張する必要があります。

仮に時効を迎えている売掛金であっても債務者に支払いの意思がある場合は、売掛金の回収を行っても問題ありません。

また債務である売掛金の存在を債務者が認めている場合は、債務者が売掛金の時効を主張することは認めないという判例が最高裁判所で示されているため、債務者である取引先に売掛金という形の債務があることを認めさせることで時効成立を回避することができます。

取引先に売掛金の存在を認めてもらうためには?

売掛金が未回収となるケースは、請求書を発行したつもりで出し忘れていたというものや取引先が買掛金の存在を忘れていた、支払い済みだと勘違いしていたなどの単純ミスで発生するものも少なくありません。

この場合は営業で足を運んだ際や電話連絡で簡単に解決するケースがほとんどです。 しかし売掛金が未回収の取引先が資金繰りに困っている場合などは、電話一本で簡単に解決することは難しくなります。

この場合は債務者である取引先に売掛金の存在を認めさせる必要があります。 債務の存在を認めることを債務の承認と言いますが、債務者である取引先が債務承認を行ったことは書面やメール、録音データーなどで証明することができます。

取引中の通常連絡の際に未回収の売掛金があることを話題に出し、その存在を認める形のメールや録音データを手に入れることができれば問題ありません。

また郵便物の内容を日本郵便が証明してくれる内容証明郵便を利用して、未回収の売掛金に対する請求を行うのも心理的効果が高く有効だと言えるでしょう。

分割でしか回収できない場合でも支払いの際に未回収の売掛金の存在を伝え、取引先に存在を認めされせることができれば問題ありません。

【法的手続きで未回収の売掛金の時効を停止させることも!】

法的手続きと聞くと手続きの面倒な裁判をイメージする方が少なくないのではないでしょうか?

しかし法的手続きは段階を踏みながら行うこともできるので、最初から法廷に出廷する必要のない方法もあります。

また裁判所に提訴し受理されれば未回収の売掛金の時効は停止しますので、売掛金の時効までの時間を気にする必要がなくなります。

簡易裁判所で行える手続き

●支払催促の申し立てで6ヶ月間時効を延期する

未回収の売掛金の時効が近い場合には簡易裁判所で支払催促の申し立てを行うことで、時効成立が6ヶ月間延期されます。

支払督促は簡単に手続きが行えるうえに手続き完了までに要する時間も短時間なので、裁判所に控訴する前にこの手続きで債務者である取引先の出方をみることができます。

支払督促の申し立てには必要となる書類等は次のとおりです。

・支払催促申立書 ・債権者が法人の場合は登記事項証明書、個人の場合は戸籍謄本

・債務者に書類送付に必要となる郵便切手

・申立手数料 ・弁護士に手続き代行を依頼する場合は委任状

上記の書類等を用意し債務者が法人の場合は法人の所在地、個人の場合は債務者が居住する住所を管轄する簡易裁判所に提出します。

簡易裁判所から支払催促が行われ、債務者が応じた場合は支払催促は終了しますが、支払催促から2週間以内に債務者から異議申し立てがあった場合は小額訴訟や通常訴訟を行います。

●小額訴訟を利用して回収する方法

簡易裁判所からの支払催促に対して債務者から異議申し立てがあった場合や、支払催促を行わない場合でも簡易裁判所で小額訴訟を提起することができます。

ただし小額訴訟の対象となるのは未回収の売掛金が60万円以下の場合ですから、未回収の売掛金が60万円を超える場合は通常訴訟を起こす必要があります。

また同じ原告が同一の簡易裁判所に小額訴訟を提起できるのは、1年10回までとなっていますので取引先が集中している場所を管轄する簡易裁判所で小額訴訟を提起する際には注意が必要です。

債務者の住所を管轄する簡易裁判所に訴状を提出し受理されると債権者は原告、債務者は被告となります。

被告には簡易裁判所から訴状の副本と審理、判決を行う期日の呼び出し状と共に手続きに関する説明書類が交付されます。

原告、被告双方の供述や証拠書類を基に簡易裁判所が審理を行い判決を下しますが、一般的な裁判のように長期化することなく原則的には1日で結審することから、未回収の売掛金が60万円以下の場合は有効な手段だと言えるでしょう。

また被告が答弁書の提出を行わない場合や出廷しない場合は、無条件で原告に勝訴判決が下されます。

通常訴訟で行う手続き

●通常訴訟となるケースとは?

未回収の売掛金の金額が60万円以上の場合や同一簡易裁判所に年間10回以上の小額訴訟を行った場合、小額訴訟の判決に債務者である被告が異議申し立てを行った場合は通常訴訟を提起することになります。

通常訴訟の場合でも未回収の売掛金が140万円以下の場合は簡易裁判所、140万円を超える場合は地方裁判所と訴状の提出先は裁判の争点となる未回収の売掛金の金額で異なります。

通常提訴は一般的にイメージされる裁判を行うことになるので、原告と被告の言い分が食い違う場合は結審までにある程度の時間が必要となるうえに、弁護士費用などの経費が発生してきます。

●通常訴訟を行う際のポイントとは!

債務者は債権者が法的手段に訴えるということを察知すると、資産価値の高い動産・不動産を処分する傾向にあります。

仮に通常訴訟で勝訴した場合でも既に債務者の資産が処分されているのでは、未回収の売掛金を回収することができないうえに裁判費用も持ち出しになってしまうという結果に繋がります。

法的手続きを取り始めると共に裁判所に対して「仮差押えの申立」を行うことで、口座凍結を行ったり、不動産の売却が停止されるなどの処置が行われ被告である債務者が資産を処分することやを未然に防ぐことができます。

しかし仮差押えの申立は裁判が結審する前に行われるために、被告が勝訴する可能性も残されているために簡単に認めてもらうことはできません。

原告が敗訴した場合の被告に対する損害賠償が行えるだけの担保として、原則現金を裁判所に預けることが求められます。

さらに裁判官と原告弁護士による勝訴見込みや仮差押えを行う必要性などが十二分に検討された結果執行されるものです。

仮差押えを行っておけば原告勝訴で結審し被告から売掛金の支払いがない場合は、裁判所によって強制施行が行われるため未回収の売掛金の回収目処が立ちますが、実現するには高いハードルをクリアする必要があると言えるでしょう。

【最後に】

いつもニコニコ現金払いで即日決済が行われる場合は売掛金の問題に頭を悩ませる必要がありませんが、日本の商習慣の中で事業を運営している以上、掛け売りのシステムを拒むことは難しいと言えます。

売掛金のシステムは取引が順調に行われている間は、取引先との信頼関係の構築ができることからメリットのあるシステムではあるものの、一旦取引先が資金繰りに困窮した場合は債務者と債権者というシビアな関係に陥ってしまうリスクもあります。

売掛金の時効停止の手続きは、できることなら行わないまま順調な取引を行いたいものですが、いざという時のために売掛金の時効や時効停止の手続き方法を知っておくことは自社を守るために必要なスキルの1つだと言えるでしょう。