中小零細企業だからこそIR活動が必要

著者紹介

 財務金融コンサルタント

 オンリードアドバイザーズ株式会社
 http://www.onlead.co.jp
 松本 眞八  

 ブログURL https://ameblo.jp/prmcap  

 

メガバンクの担当者の一言

私の顧問先での出来事です。

ある取引がないメガバンクの担当者からその社長宛にテレアポで面談の申し入れがあり、面談の運びとなり私も同席することになりました。

当時は東日本大震災後の影響で業績が落ち込む企業が多く、そのため公的な緊急支援として売上減少企業に対する融資制度が設けられていた時期でした。

面談の冒頭、そのメガバンク担当よりその制度融資の説明があり、売上減少であれば是非その制度を活用してはどうか?という提案がありました。

同席した私から顧問先の業績状況については前年対比増収増益であるので、残念ながら?その制度融資の対象には当てはまりませんと補足説明をさせて頂きました。

そうするとその担当者はなんとも残念な顔をして、「それでは仕方ないですね・・」と一言残して、早々に退散してしまいました。

私からすれば、その時分に増収増益の会社なら別の資金ニーズのヒアリングでもあるのではないか?と思っていたのですが、あまりに拍子抜けの対応に苦笑いするしかなかった。という記憶が鮮明に残っています。

このエピソードは、銀行というのは、自分の売り込みたいモノをお客に売り込むのに熱心で、非常に悲しいことですが会社の事は殆ど見ようとしない事が物凄く多い事を顕著に表しています。

IRという言葉を聞いた事があると思います。

IRとはインベスター・リレーションズ(英語: Investor Relations, IR)の略称で、企業が主に投資家に向けて経営状況や財務状況、業績動向を発信する活動を言います。

株式を上場している所謂、上場会社は都度IR活動を行い会社の状況がわかるように常に会社の状況をオープンにしています。

IR活動の目的は自社の状況をオープンにして主に投資家からの資金を呼び込みやすくすることに他なりません。

こんなIR活動ですが、株主=経営者が殆どであるような中小零細企業には無縁なものだと思っていないでしょうか?

確かに株主=経営者であればわざわざ会社の状況について説明する必要などありません。

そして冒頭のエピソードのように銀行というのは社長さんの会社の事を詳しく知ろうとするよりも自分らの売り込みたいモノを売り込むに熱心だという事なのです。

そこでもう一つエピソードをご紹介します。

月末資金ショート寸前

その会社は非常に資金繰りが厳しく月末資金ショート寸前で私に相談がありました。

相談を初めて受けたときは、既存の取引銀行からは追加融資を断られ、顧問税理士も業務範囲外とソッポを向かれ途方に暮れていたという状態でした。

銀行からの資金調達がままならない状態でしたので、月末の資金繰りは様々な支払いを遅らせる事や大口売掛先からの入金を早めてもらう事で最悪の直面した資金ショートだけは避けることはできましたが、資金繰りがタイトである事は変わりない状況は続きました。

資金繰りの改善の為にまずは社内のコストの大幅見直しや放置された未収金の回収、原価管理を大幅に見直す事を進めつつ、そこの社長に必ずお願いしたのが会社のIR活動でした。

ただIRとはいっても上場企業のそれとは趣が全く違います。

やってもらったのは毎月試算表が完成する毎に、売上・利益が前期対比どうだったのか?その要因はどうなのか?そして翌月以降はどうなるのか?(あるいはどうしようと思っているのか?)

これだけをA4ペーパー1枚に纏めて、必ず既存取引銀行の融資の責任者(課長)にアポイントを取って面談をしました。

面談時間はせいぜい30分位でA4のペーパーと試算表をセットで毎回お渡ししていました。

そんな中小零細企業版IR活動を継続して6カ月位経過した時でしょうか。

支店長が是非面談したい

ある既存取引銀行から突然、支店長が是非面談したいという連絡がありました。

今まで社長がせいぜい面談するのは銀行の担当者か課長レベルです。

支店長から面談したいというような事はその銀行と取引スタートしてから一度もありません。

社長は少し緊張した面持ちで支店長との面談に臨んだわけですが、その面談で先方の支店長から、毎月提出しているA4のペーパーがとても解かり易く、非常に信頼できる内容なので、是非ウチで新規資金を借りて欲しいという申し出がありました。

その時期、その会社の業績はようやく単年での利益が確保できるようになってきたものの、累損解消には道半ばの状態でした。

それにも拘わらず、短期資金ながら無担保融資を支店長から提案頂いたのは大変な驚きでした。

自ら発信していくことが大事

このエピソードは中小零細企業といえども、自分の会社の状況を自ら発信していくことが如何に大事で、資金調達するうえでも非常に重要なポイントになるという事を表してします。

ご存じのように昨今の銀行は人員の大幅削減が顕著です。銀行が人員を削減するとは即、銀行と会社の接点は少なくなる事を意味します。

さらに言えば、中小零細企業を銀行が詳細にその状況を実際の目で見る機会がこれからどんどん減っていくという事です。

そうすると自ずと銀行の融資判断というは事務的、機械的にならざるを得ません。

融資判断はうわべだけの財務諸表の数字だけでしか判断されないという事です。

潜在的な強みや将来性

中小零細企業は会社の数字だけで見ていては判断できないような、潜在的な強みや将来性を秘めている場合が多々あります。

それらを見て評価してもらえる機会がこれからどんどん少なくなるというのは中小零細企業に資金調達の間口を狭める事につながり死活問題です。

繰り返しになりますが、社長の会社の為に銀行が中小零細企業の事を詳しく掘り下げて見てくれるというわけじゃありません。

いくら会社に潜在的な将来性があっても相手に伝わらないと全く意味がないわけです。

見てもらえないなら自らが発信するしかありません。IR活動は上場会社だけがやるべきものではありません。

資金調達を円滑に行うためには中小零細企業だからこそ、自分の会社の事を発信していくために社長自身が率先してIR活動を行うべきなのです。

著者紹介

 財務金融コンサルタント

 オンリードアドバイザーズ株式会社
 http://www.onlead.co.jp
 松本 眞八  

 ブログURL https://ameblo.jp/prmcap  

 

平成3年に住友銀行(現三井住友銀行)に入行。渉外担当駆け出しの時どこの銀行にも融資を断られた案件を取組む事に成功。以後他所が断った案件を追うようになる。無理難題ムチャ振りできる担当者として評判を呼ぶ。

銀行合併の折リスクを取らず規定に固執する融資審査のあり方に銀行の限界を感じて平成14年に銀行を退職。不動産業界に転身し、そこでも誰も手を付けない難案件ばかりを手掛ける。

金融と不動産の知識を活かして平成22年個人として独立し、平成25年1月にオンリードアドバイザーズ株式会社設立。決算書の知識ゼロの人にも足し算引き算の知識で楽しみながら会社キャシュフローの事を理解できる完全オリジナルのキャッシュフローゲームを編み出し、赤字債務超過でどこからも相手にされなかった社長が半年足らずで支店長からお金借りてくれと頭を下げてくるようになるほどに激変させる等、数字苦手、管理苦手社長に寄り添うパーソナルコーチ。

さらにブログ「資金繰り道場」で9年以上365日毎日欠かさずに会社経営についてのメッセージを発信し続けている。